【テナントインタビュー#01】再建築不可の空き家を稼働率90%のユニークな宿泊施設に。アントン氏に聞く「負動産」を「資産」に変える発想の転換術
【テナントインタビュー#01】再建築不可の空き家を稼働率90%のユニークな宿泊施設に。アントン氏に聞く「負動産」を「資産」に変える発想の転換術
2025年2月
東京都世田谷区
8分
木造
地上2階建
64.12㎡
40.87㎡
元住宅→宿泊施設
個人
企画・運営管理:Japan.asset management/耐震診断:Tiida Associates/BIM設計:MAKE HOUSE/施工:Rrise/リーシング協力:三茶ワークカンパニー
「築68年・再建築不可・借地権付き・検査済証なし」という難易度の高い空き家を、あきラボ事業者が家賃保証付きでマスターリースの上、オーナー様との共同投資でリノベーション。接道していない再建築不可の敷地であることから、構造部の補強検討やインフラ配管の更新などにより建物の長寿命化を図りつつ、従来の住む場所から事務所併用住宅・SOHOへと場を再定義しました。その後、近隣事業者だったテナント様がDIYを施し、宿泊施設として活用しています。
【テナントインタビュー#01】再建築不可の空き家を稼働率90%のユニークな宿泊施設に。アントン氏に聞く「負動産」を「資産」に変える発想の転換術
今回は、世田谷区太子堂の路地に建つ、築68年・再建築不可・借地権付きの空き家が、SAIKATSU「かりあげ+0円リノベ」のスキーム(仕組み)にて改修され、テナント様の手によって宿泊施設となったケースをご紹介します。
SAIKATSU「かりあげ+0円リノベ」とは、あきラボ連携事業者が空き家を借り上げ、オーナーの工事費用負担なし(0円から)でリフォーム・リノベーションを行い、建物を再活用しながら固定賃料をオーナーに支払うサービスです。
テナントオーナーのアントン・ウォールマンさんは、これまでにも日本の空き家をDIYで宿泊施設へと再生させてきました。彼が空き家に感じている魅力や価値から、不動産にまつわる国内外のギャップまで、様々なお話を伺いました。(2025年9月、太子堂の家にてインタビュー)
-本日は清掃の合間にお時間をいただきありがとうございます。アントンさんのご活動は色々と見聞きしていますが、改めて自己紹介と現在の活動内容についてお聞かせください。
アントンさん: アントンと申します。スウェーデン出身で、7年前に日本に引っ越して来ました。当初はモデルとして来日しましたが、今は空き家を再生する活動を行っています。それらの物件に北欧風のインテリアを取り入れて、主に宿泊施設として運営しています。
また、YouTubeやTikTok、Instagram、Facebookといったメディアを使って、その再生プロセスを配信しています。これがメディアの仕事になったり宿の集客に繋がったりと、全てが繋がっています。2年前まではモデルが本業でしたが、今は会社に社員も雇っているため、こうしたクリエイティブ・ものづくり活動に注力しています。

-日本に移住された当初から、空き家に興味があったのでしょうか?
アントンさん:実は、当時は「空き家」という言葉自体を知りませんでした。
モデルとしてニューヨーク、ロンドン、パリなど様々な場所に住んだ経験がありますが、海外では家を借りることは簡単な一方、購入となると数億円もします。そのような認識があったので、日本に住み始めて1年ほど経った頃、「なぜ日本の不動産はこんなに安いのだろう」と思い始めました。そして、三軒茶屋で築30年、39平米のボロボロのマンションを買って、自分で住むためにリフォームしたのが最初です。
私は元々空間を作るのが好きで、スウェーデンでも昔からやっていたので、安い物件を買い、かっこよくすることは普通のことだと思っていました。ですが、その物件が完成した時に有名なモデルさんなどが撮影ロケーションとして使ってくれ、価値を感じてくれる人がたくさんいるんだなと気づきました。そのことがきっかけでまたやりたいと思い、近所の不動産屋に「安い物件を紹介してください」と頼んで、今の拠点の家(取材場所の隣家)を紹介してもらったんです。
ちなみにそのマンションは今でもまだ持っていて、賃貸しています。「敷金は取るが礼金は取らない」という外国人目線での運用をしています。みなさん礼金を嫌がりますからね。
-今日だけでも近所の方々に声をかけられている様子を何度も見て、この地域に根付かれていることを実感したのですが、最初から三軒茶屋を拠点にしようと思っていたわけではなかったんですね。
アントンさん:最初に三茶を紹介してくれたのは、今スタッフをしてくれているリーアちゃんでした。日本に来たばかりの頃は六本木、渋谷、新宿といったエリアしか知りませんでしたが、その後に下北沢を知り、そして三軒茶屋にたどり着きました。三茶はアクセスが良く、古いものと新しいものがきれいに混ざり合っていて、いればいるほどどんどん良くなる気がして大好きになりました。変わり続けているのに変わらない雰囲気があるんですよね。

-この「太子堂の家」のことはどのように知ったのでしょうか?
アントンさん:元々オーナーさんとはコミュニケーションを取っていました。
この狭い路地で2軒空き家を購入して再生したのですが、自分でリフォームを行うと1軒あたり1年、合わせて2年ほどかかります。リフォームに時間をかけることで近隣の方々にもご迷惑がかかるので、近所とのコミュニケーションを最も大切にしています。そのため、この家のオーナーさんにも挨拶に行き、ご家族も含めてプロジェクトの進捗を見せていました。
その時に、実家であるこの家をどうしようか悩んでいることも聞いていたのですが、私の方も資金のことなどがあるので、自分でここを買うか借りるかというのはあまり考えていませんでした。だから今回は、自分の前のプロジェクトが終わろうとしている時で、ちょうど良いタイミングでした。
-「太子堂の家」は、築68年、再建築不可、借地権付き、検査済証なしという難易度の高い物件でした。あきラボ事業者(Japan.asset management)が家賃保証付きで借り上げ、オーナー様との共同投資でリノベーションを行い、建物の長寿命化を図った上で、アントンさんにお貸ししています。
アントンさん:あきラボさんが大変なところ、つまり構造的な補強やインフラ配管の更新といったところをやってくれたので、自分にとっては今までで一番簡単なプロジェクトでした。
通常、空き家リフォームというと表面だけをやるケースが多いですが、ここではコンクリートを打ったり、構造的なところまでしっかり考えてもらえた。安全面だけでなく、個性を活かした家が好きなので、木材の風合いや古いところをあえて残してくれたのも最初から好きでした。
-私たちがこだわっている部分を評価していただけて、嬉しいかぎりです!
-一方で、日本人にとって「再建築不可」というのは、建て替えができない、ローンが組めないなど、非常に大きな不安材料として避けられがちです。アントンさんはそういった部分に「不安」を感じることはありませんでしたか?
アントンさん:それは逆におかしいと思います。リフォームすればいいじゃないかと。新築より安く、個性が出せるし、文化を残せます。
避けられる理由は分かりませんが、おそらく不動産屋さんが一番詳しいんじゃないでしょうか。住宅を高く売りたいのか、後からトラブルになると面倒だと感じるのか…。
もちろん、リノベーションでは大変なこともありますが、作っていくうちに感想が変わっていきます。例えば壁を取ったら日の当たり方が変わったりして、面白いですよ。
-スウェーデンと比べると、建物に対する考え方はどう違いますか?
アントンさん:ストックホルムではほとんど新築がありません。古い家を建て替えることもあまりしないですね。時々、資金のある人が建て替えをするのですが、むしろ「文化を壊している」と見られてしまいます。ストックホルムの中心地では築400年の建物もありますし、私が育った家も120年ほど前のものですが向こうでは新しい方です。
都市計画もずっと厳しいです。外壁の色ひとつ変えるにも、周りと合っていないと許可が出ない。本来そうあってほしいなと思います。
ただ日本とは事情が違って、向こうは家が足りない。スウェーデンでは「家をどう見つけるか」が課題で、大企業でも社員用の住宅を確保するのが大変なんです。だから家の価格も建築コストもどんどん上がっていて、個人で家を建てる人はほとんどいません。たいていはハウスメーカー任せです。
-なるほど、住宅が余っていて「どう活かすか」が課題となっている日本とは逆の状況なんですね。
ちなみに、この「太子堂の家」を借りた当初、どのようなデザインコンセプトを考えていましたか?
アントンさん:今回は初めてゼロから自分で全てをやるわけではなかったので、既存の何を活かせるかを考えました。土壁や古い電線といった部分を残してくれたので、普段私が作っている物件よりももっと「古い感じ」を作り出したいと考えました。
ただ、全てが古いと違和感が出てしまうので、新しいソファなどモダンな要素を入れて、新旧を混ぜ合わせました。また、普段使いするキッチンやトイレなどの水回りは新しく綺麗にしてもらっています。
また、旅行客に対して「どのように面白い体験を作れるか」という視点を大事にデザインしました。こういった宿泊施設はなかなかないので、面白く仕上げれば良いお客さんがついてくると思います。中途半端にすると良いレビューに繋がりません。
普通のホテルは、立派な外観があり、中に入ればどこに何があるかはっきり分かりますよね。それに対して、この家はユニークでゲストにとって「発見がある」ことが魅力なんです。

-あきラボ側の工事が終わる前に現場を見ていただき、協議をしたと思いますが、工事内容の調整についてはいかがでしたか?
アントンさん:私たちが手を加えやすいように、あきラボさんの工事内容を調整してもらいました。
例えば、1階の床を解体して土間にしたことで、段差が大きくなっていた階段の1段目。あきラボさんは新しく段をつけなきゃと考えていたそうですが、私が「石を持ってきて置くからいらない」と伝えたら、そのままの仕上げにしてもらえました。あとは洗濯機置き場の位置なども相談して決めましたね。
-そうでしたね。私たちの方も、目に見えないところではありますが、断熱性を上げる工夫をより検討しました。
-実際に宿泊施設としての運営が始まってからはいかがでしょう?
アントンさん:今は稼働率がとても高く、90%近くを維持しています。アメリカやオーストラリア、ヨーロッパから、家族やグループで来る方が多いですね。みなさん平均で5、6泊ほどしていて、東京の拠点として使ってくれています。1ヶ月の長期滞在の予約が入ることもあります。
-レビューもすごく高評価ですね!
外国人の目線で何を求めているかがわかるので、その点が強みになっているのかもしれません。
また、最近はAirbnbだけでなく、直接の予約も増えてきています。プラットフォーム手数料がかからないこともそうですが、お客さんと直接やり取りできるのでとても良いです。
-空き家はこれから街にとって大事なテーマだと思っています。ビジネスチャンスでもあるのに、日本ではアントンさんのように活動される方がまだ少ないですよね。最近は少しずつ現れていますが、ここまで地域に根ざしてやっている人となると…
アントンさん:みんなリスクを取りたくないんだと思います。時間もお金もかかりますし、サラリーマンの働き方だとなかなか難しいかもしれません。
でも地方には立派な空き家がたくさんあって、そこを活かすチャンスはあると思います。観光も、今はみんな同じ場所に行きがちですが、少し特別なリゾートをつくれば、もっと可能性が広がるはずです。
-日本では、どうしてもお金が集まる場所ばかりが注目されがちですよね。広告を出せる地域は露出の機会も多いけれど、小さな街や個人の取り組みはなかなか取り上げてもらえない。ただ、最近はAirbnbのようなプラットフォームやSNSのおかげで、個人でも発信できるようになってきました。
アントンさん:日本のメディアと海外のメディアで視点が全く違うと感じています。それはメディアだけでなく、ホテルや体験も同じ。「日本人向け」「外国人向け」というようにターゲットが明確に区切られています。だから一度に“みんな”にアピールするのは難しい。大事なのは、誰に届けたいのかを考えて、発信の仕方を使い分けることだと思います。
-今日お話を聞いていて、日本に可能性を感じて活動されているんだなと感じました。改めてアントンさんにとって日本の魅力はどんなところですか?
アントンさん:一番の魅力は、文化の深さですね。日本人にとっては当たり前かもしれませんが、7年住んでいても毎日のように新しい発見があります。東京と千葉でも違うように、地域ごとに文化が少しずつ違って、どこにも“伝統”が息づいているのがすばらしいと思います。
-日本人にとって身近すぎて理解できていない価値を見つけて掘り起こしていただけるのは、とても刺激になります。
アントンさん:空き家に関わる中でも、私からすると「捨てるのはもったいない」と思うものがあったり、感覚の違いを感じます。“新しいもの”への憧れがあるように思いますが、一方で古い文化や伝統も無意識に大事にしているはずです。
-最後に、今後の活動について展望があれば教えてください。
もともと私は空間をつくることが好きで、日本の感覚も外国人の目線もどちらもわかる強みを活かして、自分のつくった空間を海外にメディアを通して発信していく、今の仕事の形になっていきました。
ですが、これからは民泊や宿泊業の競争がますます激しくなると思います。なので今は、千葉県でひとつ新しいプロジェクトを進めています。滝のそばにあるちょっとユニークな場所で、築約40年で15年ほど空き家だったところをリトリート施設に再生しようとしています。サウナもつくって、日本人にも外国人にも魅力的な場所にしたいですね。
将来的には、これまでの経験を活かしてホテルをやりたいという夢もあります。10〜15部屋ほどの北欧風のホテルをつくれたら、日本人と外国人の両方に来てもらえるんじゃないでしょうか。
-これからの活動がますます楽しみになりましたし、私たちもよりいっそう尽力したいと思いました。本日はありがとうございました!
日本の不動産の“ものさし”では、ネガティブに捉えられてしまう築古や再建築不可などの空き家ですが、そんな空き家にこそ、実は世界を惹きつける「唯一無二の価値」が眠っていることをアントンさんは示唆してくださいました。
空き家を実際に価値に変えるためには、「どのような企画で、誰にどう届けるのか」が重要です。
あきラボでは、ただ空き家と借主をマッチングするのではなく、空き家オーナー様の負担を押さえる仕組みを開発しながら、建物が地域資源となるような企画や改修、テナント募集を行なっています。私たちあきラボは、これからも皆様の大切なお家の「当たり前」に潜む価値を見つけ、それを最大限に引き出し、新たな可能性に変えるお手伝いをしていきます。
定型文説明が入ります。定型文説明が入ります。定型文説明が入ります。定型文説明が入ります。定型文説明が入ります。